阿佐ヶ谷ロフトAトークショー(2013.8.11)リポート
2013-08-13


阿佐ヶ谷ロフトAトークショーのリポートです。過日、小学館の編集者様からお話を頂き、「白井さんとのトークなら喜んで」とお受けした企画です。

 ●白井弓子×上田早夕里トークショー「日本の夏、SFの夏」
   開催場所:「阿佐ヶ谷ロフトA」
   司会  :大森望

 白井さんの『WOMBS』最新刊(第四巻)発刊記念として行われました。白井さんの著作は、入手できるものはすべて読んでいます。今回は『WOMBS』を中心に、創作秘話をうかがって参りました。阿佐ヶ谷ロフトAは、客席にテーブルが並び、食事を摂りながらトークを聞ける会場でした。

 まず、『WOMBS』を書いた動機から質問。現代社会において「妊婦」という言葉から連想されるイメージ、特にネガティヴな印象を覆したかったとのこと。プライベートなものになり過ぎている妊婦・妊娠の話題を、パブリックなものとして積極的に顕在させてみたかった、と。

 『天顕祭』を書くよりも先にアイデアがあった。長年温めてきたネタ。途中経過のメモを、拡大コピーの形で見せて頂きました。『WOMBS』の原型ともいうべき作品を、ずいぶん昔に、一度お描きになっているそうです。その後、まずアルメア軍曹のイメージが「絵」として立ちあがり、『天顕祭』執筆を経て、どんどん具体的な設定やストーリーが立ちあがっていった。

 『WOMBS』は現在第四巻まで出版されています。まだ完結していません。
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 SFファンなら見逃せない本格SF作品です。国家の存亡をかけた闘いに、女性だけで構成された部隊が、文字通り命懸けで関わっていく――苛烈な戦争描写、スケールの大きなストーリー展開、SF的な謎、登場人物に対する丁寧な心理描写など、目を離せない要素がたくさんあります。物語のベースに置かれた生物SF系のアイデアも秀逸です。

 トークショーの準備としてメモを取りながら読んでいたら、B5版のルーズリーフで18ページほどの分析メモができたので、当日、これを会場へ持ち込みました。すべてを質問させて頂いたわけではなく、また、第五巻以降のネタバレに繋がりそうな部分は言及を避けました。トークの中で挙がった話をいくつか抜き出しておくと、

 ・『WOMBS』の原形となった作品が書かれた時期は、松尾由美さんの〈バルーン・タウン〉シリーズ(*1)が書かれた時期と、偶然にも一致している(日本SF史における時代的な共鳴?)

 ・ニーバスには、オスもいる。

 ・日本のSFアニメや漫画では子供(未成年)が戦士なるパターンが多いので、大人の戦士としての「闘う妊婦」を描いてみたかった。

 ・中間管理職の話が好き。アルメア軍曹をとても気に入っている。

   ※ちなみに、私はアルバ大使が出てくるターンの話が好きで、ここはAIと人間の噛み合わなさの表現が傑出しています。感情のないAIと接触することで、職掌柄、冷静で優秀な交渉能力を持っているはずの人間(特命全権大使なので、とても優秀な人が派遣されているわけです)の人間性が、どんどん露わになっていく。SFとして非常に面白い部分だと思います。


 ・影響を受けた少女漫画の話。陸奥A子さん、萩尾望都さん、清水玲子さん、樹なつみさん、佐藤史生さんなどのお名前が挙がりました。私は、エンターテインメント作品の中には、〈何かを得て勝利する物語〉だけでなく、〈喪失(何かを失うこと)を結末とする物語〉もある、それも物語の感動のひとつであると思うのですが、白井さんも、この種の作品に心を動かされる部分をお持ちだそうです。

 ・第五巻以降、ストーリーがもっと大変なことになる……らしい。

 ・『WOMBS』と並行する形で、別社から新しい作品が発表される。

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